枝葉の証言

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苔むした幹の分岐点で、光は粒子と波動の二重性を放棄した。彼は樹皮の襞に手を滑らせ、年輪という虚構に触れた。

「森は個の集合ではなく、集合の個だ」と彼は心得ていた。土壌と菌糸の網目は彼の足裏を通じて思考を吸い上げる。

樹冠の隙間から覗く青は、光の屈折した欠落にすぎない。彼は立ち止まり、針葉の絨毯を踏み締めた。その圧力が伝播し、森が微かに震えた。

倒木の断面には輪が刻まれ、彼はそこに触れた。輪紋は中心から外へではなく、外から中心へと収縮していた。「時間は向きを持たず、我々が向きを与えるのだ」

朽ちた樹洞から漏れる微光は、腐敗ではなく生成の証だった。彼はその中を覗き込み、樹洞は彼を覗き返した。

松脂の滴る枝を折ると、その亀裂から流れ出したのは思考だった。「侵食されるのは常に観察者であり、観察対象ではない」

森は彼を取り込み、彼もまた森を取り込んだ。
その他
公開:25/03/21 19:08

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