視線の先に

私は毎朝、通学路の途中にある田中さんの家の前で足を止める。
今日もいた。田中さんの家の門柱の上に灰色猫が座っている。
灰色猫は私達を観察するかのようにじっと見つめる。優しく触れば嫌がらない。だからつい、毎朝ここで足を止めてしまう。
私は灰色猫をガーゴイルと呼んでいる。門番のような佇まいと毛の色から私以外にもそう呼ぶ人は多い。
ガーゴイルは日常の風景と化していた。だから、亡くなったと聞いた時はとてもショックだった。
もう田中さんの家の前で足を止める事もないのか…と家の前を素通りしようとした時だ。
猫の鳴き声が聞こえた。
足を止め、思わず門柱を振り返る。
そこには何もいない。気のせいか…と視線を前に戻す。
脇道から現れた車が私の目の前を猛スピードで走り去った。
もし、足を止めていなかったらと思うとゾッとする。
もう一度、門柱を振り返る。
目には見えないけど、今もガーゴイルがいるような気がした。