視線結び

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図書室で自習中、親友が向かいの席から手を突き出して言った。
「まなざしを貸してくれ」
「ものさし?あぁ、ほらよ」
勉強そっちのけによそ見をしていた僕は、数学の参考書を脇へ寄せ、半分上の空で筆箱を探った。
「貸すのはいいけど、英語やってたんじゃないのか?」
「どっちかと言えば心理学かな」
ノートと英単語帳を閉じ、親友は差し出した定規を素通りして、僕の目の前5センチを指でつまんだ。
よく見ると、爪の縁に糸が引っ掛かっている。金色に透き通った細い糸は、親友の体を通過して図書室の奥へ伸びている様だ。
「何だこれ。蜘蛛の巣?」
「視線だよ。お前のは本当に一直線だな、ひねくれ者の俺と違って」
ニヤリと笑った親友が、糸を離して席を立つ。
「相合傘ならぬ相合視線だ。じゃーな、ご両人」

視界が開け、奥の席に座る彼女の、紅く染まる頬が直接見えた。
お互いへ向いた二本の視線が、真ん中でハート型に結ばれていた。
青春
公開:25/03/17 13:53
月の音色 月の文学館 テーマ:視線の先に

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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