視線の先に

食品サンプルを作る仕事をしていた私は引退後、死体の模型を作っている。
災害などに遭い、行方不明のまま挙げられる葬儀。空っぽの棺桶は虚しさしかない。
だから私は、故人そっくりの模型を作っては納棺する。
人形特有の冷たさに、本人ではないかと見間違う人も多い。
人形には魂が宿るとも言われている。肉体は失われた。しかし魂がここにあるのなら、天国へと送り出したい。
棺桶の中、目に見えるものがあるとないとでは大違いである。
それに最近では行方不明になったペットの葬儀に、私の作った模型が使われる事も増えてきた。
愛したペットそっくりな模型を見て、部屋に飾っておきたいと言い出す飼い主も多い。燃やしたくないと涙する飼い主も少なくない。
だけど、私は何と言われようともそれを供養する。本当の葬儀を執り行う。
死体模型は死を受け入れる為のもの。目を逸らす為のものではない。
人が明日も、前を向いて歩く為のものだ。