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 夫は結局、仕事を辞めて、クジラになってしまったので、別れるしかなかった。
 私は役場に離婚届を取りに行き、まず自分の名前を書き、それから、夫が人間だった頃の筆跡を思い出して、筆跡を変えて、夫の名前を書いた。
 そして私は高台にのぼり、海に向かって、それをひらひらと振って、見せた。
 そうしたら、遠くで、クジラが潮を噴いたのが見えた。
 たぶん夫だった。
 でも、その潮を噴く行為が、何を意味するのかは、既にわからなかった。
 それから数年後、私は捕鯨船の船長と恋に落ちた。
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公開:25/03/18 21:02

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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