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並べられていたパイプ椅子を片づけ終えると、元よりも体育館が広くなったように感じる。

教師として生徒たちの巣立ちを何度も見届けてきたが、卒業式を終えて日常に戻った体育館に一人残されるこの瞬間は今でも寂しい。
キュッキュッと物悲しく響く足音を連れて艷やかな体育館の床に目を向け、今年もたくさん零れているなぁ…と微笑み、私が足元からそっと摘み上げた水色の光は卒業生の涙。生徒と一緒に成長してきた教師にだけ見えるもので、式の後こうして私のように拾い集める者がほとんどだ。

シーグラスのように、ミントグリーンの涙を日に透かしてみる。林間学校で集合写真を撮る生徒たちの姿が見えた。オレンジ色の涙には給食の風景、紅白の涙には体育祭…。涙には想い出が宿っている。

全ての涙を拾い集めると、両手で優しく包みこみ「卒業おめでとう」と告げる。
蕾が綻ぶように手を開くと、涙たちは羽を広げ力強く夕空へ飛び立っていった。
その他
公開:25/03/18 18:34

花笑みの旅人( 気の向くまま )

作品を開いてくださりありがとうございました~。
もし気が向いたら、また遊びに来てください♪

しばらく投稿はお休みします。

2025.3.25

 

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