視線を飾る

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「空が好きかぃ?」

絵筆の先に集中したまま、師匠がお客へ話しかける。

「え、わかるんですか?」

思わず師匠に顔を向けたお客へ「動いちゃだめだよ」と師匠が笑う。お客は「すみません!」と謝り、慌てて視線を遠くへのばした。さっきよりもピンと張った視線の上に、師匠は再び絵筆をのせる。

「視線見りゃわかる。綺麗な夏空色だ」

褒められて、お客の眼差しが柔らかくなる。
うちの師匠は人の視線に絵付けをして、美しいリボンを作る職人だ。弟子の私には、絵付けの段階でお客から伸びる視線の色や手触りはわからない。でも、師匠には見えているのだ。

「好きなもので、視線の色は変わるんですか?」

視線はそのままにお客が尋ねる。

「好きなものっつーか、視線ってのは自分の視線の先に何を求めているかで決まるからよ……ほら、完成だ」

師匠がグッと宙を掴むと、夏空を泳ぐ海月の描かれた美しいリボンがしゅるりと現れた。
その他
公開:25/03/18 18:29
更新:25/08/12 16:07

ネモフィラ( 更新停止 )

読んだ人に笑顔になってもらいたいという想いから投稿し始めましたが、私の文章ではそういったものが届けられないのだろうなぁと気づかされました。

今は書こうと思うとただただ悲しくなるだけなので、もう投稿することはないかもしれません。
アカウントは残しますがこれ以降浮上することもないかと思います。

短い間でしたが今までありがとうございました!
たくさん学ばせて頂きました。
お元気で。

2025.9

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