視線を飾る

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「空が好きかぃ?」

絵筆の先に集中したまま、師匠がお客へ話しかける。

「え、わかるんですか?」

思わず師匠に顔を向けたお客へ「動いちゃだめだよ」と師匠が笑う。お客は「すみません!」と謝り、慌てて視線を遠くへのばした。さっきよりもピンと張った視線の上に、師匠は再び絵筆をのせる。

「視線見りゃわかる。綺麗な夏空色だ」

褒められて、お客の眼差しが柔らかくなる。
うちの師匠は人の視線に絵付けをして、美しいリボンを作る職人だ。弟子の私には、絵付けの段階でお客から伸びる視線の色や手触りはわからない。でも、師匠には見えているのだ。

「好きなもので、視線の色は変わるんですか?」

視線はそのままにお客が尋ねる。

「好きなものっつーか、視線ってのは自分の視線の先に何を求めているかで決まるからよ……ほら、完成だ」

師匠がグッと宙を掴むと、夏空を泳ぐ海月の描かれた美しいリボンがしゅるりと現れた。
その他
公開:25/03/18 18:29
更新:25/03/26 18:06

花笑みの旅人( 気の向くまま )

作品を開いてくださりありがとうございました~。
もし気が向いたら、また遊びに来てください♪

しばらく投稿はお休みします。

2025.3.25

 

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