彼は生きている

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公園のベンチに座り夕暮れ時のマジックアワーに見とれていると、走り寄ってきた少年に声をかけられた。
「おじさん、早く逃げないと夜に食われるよ」
こどものいたずらかと思いきや、少年の向こう側はすでに真っ黒だった。俺はあわてて仕事用のバッグを抱えて立ち上がった。
「こうしちゃいられない。早く逃げないとな」
「ぼく、どっちへ行ったらいいか知ってるよ。ついてきなよ、おじさん!」
「そうか、よろしく頼むよ」
仕事は解雇になり家族にも見捨てられたが、少年の後ろを走ってゆくと悩んでいたことが急に小さく思えてきた。
公園のすべり台を過ぎた辺りで、ついに夜の魔手から逃げ切ることに成功した。
「おじさん、おめでとう!」
「あぁ、君のおかげさ」
握手をした時、思い出した。少年はこどもだった頃の自分だということに。
「励ましたつもりだったんだよな。ありがとな、俺!」
そう言うと、少年は明るく笑って消えてしまった。
ファンタジー
公開:25/03/13 18:18

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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