気持池

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「梶君。原さんなんだけど」
「はい」作業を止め、不機嫌な店長と向き合う。
「彼女、またクレームが入ってさ。無愛想だって」
厨房入口から接客をする彼女を見た。気怠そうな感じが後ろ姿からでも伝わってくる。
「…明らかに切れてますね。気持ちが」
「もう?人件費ゼロに出来ると思って人型AIに総入替えしたら、コレだよ」
「電力はともかく、気持ちは高額ですからね」
「そうなんだよ。電池はしれてるが『気持池』の消費がこうも早いと人件費と変わらないじゃないか」
「気持池のおかげで最新型は人と変わらない細やかな対応が出来るわけですが…」
「昔はさ、気合を入れろの一言で事足りたんだよ。馬鹿らしいよ気持ちに金なんて。気合も学習させてよ。できんでしょ」
反論したい気持ちを抑え、昭和生まれの捨て台詞を残された厨房で黙って飲み込こんだ。

皮膚に埋め込まれたLEDが点滅する。
どうやら私の気持池も切れたようだ。
SF
公開:25/03/15 10:00

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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