いつわり

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「大丈夫?」

青い顔をして戻ってきた夫に声をかける。

「なんとか…こんなに苦しいもんなんだね」
「うん、まぁ」
「僕は一日の辛抱だけど、カナちゃんはこれがまだ数ヶ月続くんでしょう?ツラい時は言って。僕がサポ…うぷっ」

言い終わらないうちに、夫はまた口元を押さえ駆け出していった。

結婚して三年。妊娠が判明した時、夫はとても喜び、同時に私の体を気遣ってくれた。

「親になるんだもん、僕も自覚持たなきゃ」

そう言って夫は、早速妊婦体験に申し込みをした。以前はおもりをつけて臨月の妊婦を体感する程度だったが、なんと最近は薬でつわりを疑似体験できる。一錠で効果は一日。あのもやもやした気持ち悪さを男性も味わえるのだ。

「ほんとに大丈夫?」
「うん…カナちゃん大変だね。代われるものなら僕が代わってあげたい」

ああ、代わりを申し出るとはなんて優しい夫だろう。


父親としても、身代わりなのに。
ホラー
公開:25/03/09 21:55
ぱせりん祭り もやもや祭り こんな話でごめんなさいね

makihide00( 鳥取→東京→福岡 )

30代後半になりTwitterを開設し、ふとしたきっかけで54字の物語を書き始め、このたびこちらにもお邪魔させて頂きました。

長い話は不得手です。400字で他愛もない小噺を時々書いていければなぁと思っております。よろしくお願いします。

Twitterのほうでは54字の物語を毎日アップしております。もろもろのくだらない呟きとともに…。
https://twitter.com/makihide00

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