雨と造花

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 その家の玄関には造花が飾られていた。
 ある日の午後、雨が降り出した。
 するとその家に住んでいる老婆が、造花を外に出し、雨を浴びさせた。
「母さん、それは造花ですよ」
 老婆の息子は嘲笑して言った。
「造花の気持ちも考えてごらんよ」
 老婆は言った。
「こんなに綺麗な雨が降っているんだよ」
 息子は黙ってしまった。
 それから数年後、老婆の葬式が行われた時、祭壇には造花が供えられた。奇しくもその日は雨が降っていた。
その他
公開:25/03/10 14:02

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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