名画でショート049『キリストの嘲弄』(マティアス・グリューネヴァルト)

1
1

まるでサーカスのようだった。
人々の壁の中で、縛られて目隠しをされたキリストが、まるで牛のように引き立てられている。
後ろにはリュートを吹きながらドラムを叩く男がいる。中央のプロレスラーのような大男は、キリストに向かて拳を振り下ろす。
杖をもつ中年男性が、大男を窘めようとしているが、もちろん本気ではない。ますます大男は調子にのり、強く拳をふりかぶる。
壁の外側には、見物人が集まっている。見物人のためにも、演奏する男のためにも、大男は見せしめとして、拳を振り下ろさなくてはならない。
娯楽の少ない時代。罪人を見ることが、エンタメであり、人々の留飲を下げる道具でもあった。
自分より不幸なひと見ることで、自分の不幸を忘れる。溜飲を下げたところで、自分の生活が改善するわけではないのに、奇妙な満足感を得る。
いまも続く、人間の本性。
その他
公開:25/03/06 15:16

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容