尊バッグ

押入れの中から古びたトートバッグが出てきた。中はノートがびっしり。それにこれは…父の字？
意外だ…父は勉強が得意で教えるのも上手。その父が昔、こんなにも勉強していただなんて…
「それ、私のよ」と母。
「私ね、学生時代、勉強が苦手なのに、あの人と同じレベルの高い大学に行きたい！って言い続けていたの。そしたらあの人、私の為に要点をまとめたノートを作ってくれたの。それがそのノート群」
改めてノートを読んでみる。参考書顔負けの説明力で、各教科の躓きやすいところから注意点まで丁寧に書かれてある。
「それのおかげで、私もあの人と同じ大学に入れたわ」
両親が幼馴染というのは知っていた。そんな青春があったなんて知らなかった。
「そのバッグ、重いでしょ？あの人、私の代わりにいつもそれを持って送り迎えしてくれたの。思い出が詰まったバッグなの」
母の話に私は思わず「尊（とうと）バッグじゃん…」と呟いてしまった。