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 公園の桜はブルーシートを広げる花見客を見る。河川敷の桜は川の流れを、そこに住まう生物を見る。街中の桜は人々の生活を見る。
 実家の隣に桜の巨木があった。太い幹は象の胴ようで枝葉は空高く伸びていた。この木は僕たち家族の成長を見つめていた。
 今、僕の目の前に桜の木がある。ボロアパートの庭に生えた一本の木だ。実家のものと比べると可哀想なほどに細く、低い。この桜は今まで一体何を見てきたのだろうか。
 この桜の花を見るのは今年で3回目になる。もう自分がなんの目的でこの地に来たのかは覚えていない。それはこの桜も同じだろう。しかし、この桜は毎年花を咲かせている。少なくともこの3年はそうだった。そう思えた途端、この木から憐憫の情を感じた。僕はそれが恥ずかしくなり、その場を離れる。
 そうだ、可哀想なのは僕だった。
 部屋に戻り、カーテンを閉める。身体の中が異様なほどに暑かった。
青春
公開:25/03/01 22:22
更新:25/03/02 21:36

おいしい舞茸( きょーと )

舞茸です。
舞茸そのものです。

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