春を探しに

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あたたかくなってくると、下りの電車に乗りたくなる。
車窓の向こう側に春をみつけたいからだ。
ちいさなバッグにICカードとスマートフォンを忍ばせ、プチ旅行へ。
わたしが住んでいるところは開発が進んで、かなり人口密度が高いけど、三駅離れれば、もう里山の風景に出くわすことができる。
民家のおおきな庭では、白や薄く赤みを帯びた梅がほころび、地面には水仙やクロッカス、福寿草、ムスカリが顔を出している。
ひとり降り、またひとり降りて、車内には、白いレースをたっぷり重ねたドレス姿のご婦人とわたしだけになっていた。
ご婦人はにこにこしながらわたしに言った。
「春はお出かけしたくなるのよねぇ」
「そうですねぇ」
交わした言葉は少なかったけれど、心のなかにふわりとやさしい風が吹いた。
通り過ぎてきたいくつかの春に、また新しい思い出が重なった。
その他
公開:25/03/01 11:09

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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