標識の剪定

「こちらなのですが…」
「なるほど、たしかにこれは随分伸びましたね」

窮屈そうな黄色を背景にして、この先の道を表すY字から縦横無尽に枝分かれした黒い道。これが【Y型道路交差点あり】の警戒標識だったとは信じられない程に逞しい枝ぶりの道だ。

「…お恥ずかしい。往来が少ないということを言い訳にしてはいけませんが、長い間この標識の道の剪定だけが見落とされていて、近隣の小学生たちの間で【タコ足枝看板】と噂になり、やっと気付いたのです」

脚立に登り、標識と向き合う。
そうか、みんなの交通安全を守りたいという強い意志が、君の枝ぶりに表れたんだな。標識の想いを再び正しくみんなへ届ける為、私は標識の中へ枝切り鋏を差し込むと標識いっぱいに広がっていた黒い道を切り落としていく。次第に枝分かれした道は無くなり、背景の黄色が目覚める頃にはすっきりとした表情の【Y型道路交差点あり】が輝きを取り戻していた。