駄菓子のキオク

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駄菓子屋があった。気まぐれで、ひと駅くらいと散歩したら思わぬ発見だ。
最近は娯楽施設なんかにもあるが、ここは本物だ、そう思った。

「うちは駄菓子のキオクを扱ってます」
目を凝らすと、奥の畳に老婆が座っていた。
そういう製品名があるのか、それとも記憶だろうか。
「へぇ!それってどんなモノです?」
気づけば足を踏み入れていた。
「どんなも何も。お好きな駄菓子、手にとってご覧なさいな」

見慣れた駄菓子、知らない駄菓子、その中からキャラメルを手に取る。どこか懐かしい黄色い紙箱のパッケージ。

瞬間、目眩がした。

車の助手席で揺られていた。運転席には若々しい母。口の中が甘い。手に握ったキャラメルの箱を大きく感じた。
ああ、そうだ。これは注射を我慢した自分へのご褒美だった……。

もう一度目眩がして現実へと戻る。
目の前に駄菓子屋は無かった。
手には小さな紙箱。
財布からは五百円玉が消えていた。
ファンタジー
公開:25/02/15 23:42
更新:25/02/15 23:48

いぬさか

初心者ですがよろしくお願いします。
心に浮かんだシーンを気ままに描いていきたいです。

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