すごい気配り

俺はショートケーキが大好きだ。
味や見た目は当然として、王冠のように鎮座したイチゴがたまらなく好きだ。
酸っぱすぎたり、甘かったり、当たり外れもあるがそこがまた魅力である。
そんなショートケーキのイチゴを俺は２０年以上口にしていない。
嫌いになったわけではない。俺はそのイチゴをおまじないに使っている。
大好きなものを大好きな人にあげるとその人は幸せになるらしい。
だから俺はイチゴに蜜ではなく願をかける。イチゴを大好きな人に捧げ続けた。
そうして俺は妻と結婚し、幸せな家庭を築いた。
娘が生まれてからは、イチゴは娘のものになった。健やかに幸せにと願をかけた。
そんな娘が今日、結婚する。
娘と義息子が俺に切り分けたウェディングケーキを差し出してきた。その上にはたっぷりイチゴが乗っている。
片や妻と娘夫婦のケーキの上にはイチゴが乗っていない。
それを見て、俺はケーキを口にする前に幸せを嚙みしめた。