靴ひとつ、夜の向こうへ

0
1

男はブランコに腰掛け、足を前後にゆっくりと揺らしていた。その動きはまるで振り子のようで、一定のリズムを刻んでいる。

「あーした天気になーあれっ」

勢いをつけて蹴り上げた足が、夜の空気を切り裂く。
次の瞬間、靴が軌道を描き、闇の中へと吸い込まれていった。

ざくっ。

沈黙を破るように、小さな音が砂の上に響く。男はブランコから降りると、片足で音のする方へ向かった。

ざっ、ざっ。

砂と靴下の擦れる音だけが、静まり返った公園に響く。暗闇という鏡の中で、彼の行動すべてが鮮明に映し出されるようだった。

やがて、暗闇の中に落ちた自分の靴が視界に入る。

「あちゃー」

ため息まじりに呟きながら、それを拾い上げ、足を滑り込ませる。
しっかりと履き直したあと、男は小さく肩を落とした。

「明日も雨かぁ」

月は静かに光を投げかけるだけで、何も答えなかった。
その他
公開:25/02/15 19:57

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容