感情取引所

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街の外れにある「感情取引所」を見つけたのは、心が壊れそうな夜だった。失恋の痛みに耐えきれず、僕は店に飛び込んだ。店主は無表情に「どの感情を売りますか?」と尋ねる。「悲しみ」と答えると、彼は無言で心からそれを抜き取った。代わりに手元に残ったのは冷たい硬貨。確かに悲しみは消えた。だが、何も感じない。

笑顔も、心の温かさも、すべてが遠のいていく。再び店を訪れ、「なぜこんなにも空虚なんだ?」と問い詰めた。店主は淡々と答えた。「感情は絡み合っている。ひとつを失えば、他も連鎖して崩れるのです。」

何か大切なものを失った。けれど、それが何かすらわからない。ただ、虚無だけが心を満たしていた。そして二度と、感情は戻らないと言われた。すべてが無意味になり、世界は静かに色を失っていった。
SF
公開:25/02/18 16:01

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