効果

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 駅で客待ちをしていたタクシーに、品のいい老婆が乗り込んできた。
 手に千羽鶴を持っていた。
「どちらまで?」
 運転手が尋ねた。
 老婆は大きな病院の名を告げた。タクシーは走り出した。
 老婆は後部座席でずっと、千羽鶴の折り鶴の数を数えていた。
「七百七十七……」
 そしてもう少しでタクシーが病院に着く頃、
「九百九十九……千」
 老婆はため息をついた。
「本当に千羽あるわ」
 老婆はつぶやいた。
「まったくあの子たちったら」
 そして老婆は一羽の折り鶴を、千羽鶴の中からちぎり取ると、それをくしゃくしゃに丸めた。
「いいんですか?」
 運転手が尋ねた。
「いいのよ。千羽鶴の効果があっちゃ困るから」
 病院に着き、老婆は金を払って降りていった。
 数か月後、そのタクシーが駅で客待ちをしていると、誰かが窓を叩いた。あの老婆だった。喪服を着ていて、笑顔だった。
ホラー
公開:25/02/17 21:32

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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