町医者

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往診に訪れた医師の姿に男は戸惑った。軽トラに作業着で首に手拭い、医師と言うより清掃作業員だった。
その戸惑いを感じ取った医師は慣れた様子で笑う。
「白衣よりこの方が動きやすくてね。しがない町医者なんでね」
失礼を詫び、男は患者の所まで案内する。
「なるほど。良くないですね」「もう分かるんですか。まだ先なんですが」
「空気が変わりました。熱がありますね」「どうりで…」男は額の汗を拭うと「こちらです」と患者を示した。医師は呼吸を診るために患者に触れた。
「聴診器を使うまでもなく、手に伝わってくる振動で分かります。相当苦しいはずだ」
「しかし今大事な時期なんです。この開発に我々の命運が…」
「我々が彼らを育んでいるんじゃない。我々が育まれているんですよ」
医師は言葉を遮り、男に花の種を手渡した。
「薬は出しておきます、あくまで対処療法ですよ。町長」

町を専門に診る、町医者は優しく地面を撫でた。
SF
公開:25/02/11 08:42
更新:25/02/11 15:27

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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