やばい

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 ビル清掃のアルバイトをしている。
 街外れのビルの、ある会社が入っているフロアの隅には《ため息室》という小部屋がある。その窓のない小部屋には、空気清浄機が一台置かれているだけで、他に何もない。
 ある日その小部屋の床を掃除していると、空気清浄機がピーピー音を鳴らし始めた。見ると《フィルター交換》のランプが点っている。
 何の気なしに空気清浄機からフィルターを外すと、フィルターにびっしり、真紫色のゲル状の何かが張り付いていた。
 何だこれ。そう思っていたら突然背後から、
「やばいでしょ」
 という声がした。慌てて振り向くと、スーツ姿のおじさんが立っていてこちらを見ていた。
「やばいでしょ、うちの会社」
 おじさんはフィルターを指さして弱々しく笑う。
 何と答えればいいかわからないでいると、おじさんは深いため息をついた。そして、
「あっ、やべ」
 と言って口を手で塞いだ。
ホラー
公開:25/02/14 23:52

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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