深宇宙

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 明かりがついていない真っ暗なリビングルームには小さくうずくまった私がひとりと父親の死体がひとつある。私の手元には昨日買ったノイズキャンセリング付きのラジオがあって、周囲半径1メートルを完全な無音にしてくれる。ラジオの角は父親を殴った時についた血で真っ赤に染まっている。
 窓の外で赤い光が点滅している。きっと逃げ出した母親が通報したんだ。私は両手で目を覆う。何も見えない。何も聞こえない。私は安心する。
このラジオを買ってよかった。昔から怒られた時に、耳に手を当てて聞こえないふりをしても、わずかな隙間から入ってくる大人の怒声が煩わしかった。一人になりたい時も、外から聞こえてくる車の走る音や、隣の家の室外機の音がうるさくて落ち着かなかった。
 今私の周囲半径1メートルには深宇宙よりも真っ暗で静かな空間が広がっていて、そこには怒鳴る大人もいないし、生きている者は私以外に何もない。
その他
公開:25/08/05 10:36

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