地底人の唄

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太い管のなかを配管工が一人、這うように進んでゆく。地中のかなり深いところまで来ているはずだ。このあたりで所定の配管作業をと思うが、配管工は継ぎ目を見つけられない。緩やかに下降する管をゆくとくねくねと曲がる。こんな変な管は見たことがない。おまけにいくつか分岐してそこからいくつか管が別れて出ている。配管工は慎重にヘルメットについたライトで前方を照らし進む。管では配管工が持つ工具が管壁とぶつかる以外に音はしない、はずだったが、微かな音がする。前方に目をやると変わった形の管が突き出している。複雑な形状。配管工は三半規管のことを思ったがもちろん三半規管がどんな形なのかは知らない。
管の口があいている。音はそこから洩れるらしい。配管工は管の口に耳を寄せた。人の声のような太鼓の音が混じるような不思議な音、唄が響いてきた。ああ、今日は地底人たちの祭りか、と配管工はしばらく地中で地底人の唄に聞き入った。
その他
公開:25/08/07 17:39

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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