診察室の孤独な幻覚

0
1

「先生、今日の私はどう?」
ユノは診察室の椅子に腰かけ、
刺繍された包帯の指で裾を握る。

灰がかった髪が透けて揺れる。
甘えたような微笑みで、瞳を射抜く。
壊れた人形のような姿はひどく愛おしい。

私は黙ってカルテに記す。
──彼女の揺らぐ存在を、必死に書き留める。

「誰かに見られないと、みんな消えちゃう。そうでしょ?」
鏡の奥から声が響くみたいだ。

夢を描き、拒絶に震え、それでも生きた日々。
窓の世界を観る瞳はこんなにも綺麗だ。

ユノは髪に指を這わせて囁く。
「ね、先生⋯逃げるって、罪じゃないよ」
息を呑んだ。鏡を見ても彼女は映らない。

「私の診察は、終わり?」
耳の奥で響く声。手が震えて止まない。
──カルテに滲むインクは、私の名前。

自分だけがユノを診察できる。愛してあげなきゃ。
私の傍で、耳元で囁いてる。あの子は待ってる。

今日も私は夢を診ている。この壊れた診察室で。
ホラー
公開:25/07/29 13:54

広辞苑

様々なジャンルで楽しく小説を書いてます。偏愛大好き。
学園アイドルマスターの篠澤広が好きです。

見つけたそこの貴方は是非この機会にフォローをお願いします。
私の小説をそばで見れます。フォロバ100%。
毎度ありがとうございます!!

ピクシブでも短編小説を書いております。
https://www.pixiv.net/users/118214331

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容