彼女へのコーヒー

毎朝、朝食を用意すると共に彼女に一杯のコーヒーを淹れる。
彼女はコーヒーカップに口をつけ、｢美味しい｣と微笑む。そこまでが私の朝のルーティンだった。
いつからか、私と彼女は同じテーブルで朝食を食べなくなった。些細な喧嘩がきっかけだったと思う。
それでも、私はコーヒーだけは変わらず用意し続けた。隣の部屋から微かに彼女の｢美味しい｣という声が聞こえていた。
ある日、飲みかけのコーヒーを残し、彼女は私の前から居なくなった。彼女の荷物もカップを除いて全て無くなり、私は一人になった。
それでもコーヒーは用意し続けた。いつ彼女が戻ってきてもいいように、彼女のカップで。
何年か経って、別の女性と結婚をする事になった。
すっかり冷めてしまったコーヒーを排水溝に流し、妻のために温かなコーヒーを新しく注ぐのだった。