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外では蝉が鳴いている。忘室は生徒で溢れ返っていた。
奪業のチャイムが鳴ると黒板脇のドアが開き、忘師は忘壇に立った。
いつもは教室として生徒が授業を受けているその場所は、夏休みの間だけ姿を変える。
制服姿の高校生ではなく、青春の彩りはとっくに夏の日差しに日焼けし色褪せ、人生の初秋を迎えた面々が机に向かう。
「今日、皆さんに忘れていただくのは忘科書28ページ、じゃあYさん」
当てられた生徒はチョークで黒板に書いた。
「なるほど、皆さんもノートに書き出してください。先人に教えられた常識を」
各自、ノートに書き記すと消しゴムを持った。忘師も黒板消しを持つとYに渡した。
「Yさん、なぜこの言葉を」
「この言葉を鵜呑みし、無理をした結果、心を病んでしまいまして……」
「では、皆さん一緒に忘れましょう。今の時代に即さない常識は」
 い の 労 買っ    ろ
Yは黒板消しをふるい、縛られた常識を忘れた。
SF
公開:25/07/28 12:23
更新:25/07/28 12:27

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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