蝋燭と初恋の記憶

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煤けた梁の下、蝋燭が揺れている。

私は記憶を買い取る店主。
蝋燭は記憶媒体。炎が短くても再生には足りる。

その夜、若い女性が訪れた。
「初恋の記憶を売りたいんです」

私は頷き、決まり文句を口にする。
「再生をご希望ですか?」

頷く瞬間、彼女の視線が私を貫く。
その瞳に揺れる感情は、わからない。

蝋燭に記憶を灯す。
──放課後の校庭。少女の背中。

「……ねえ、ずっと好きだったの」

胸が痛む。知らないはずの痛み。
映像は消え、彼女は黙って立ち去る。

私は記録台帳をめくった。

──あった。二年前。
蝉の声。夕陽。制服の襟元を風が揺らす日。

彼女は知っていた。忘れる前に、私に記憶を刻んだ。

『再生をご希望ですか?』
その言葉は、私に向けたものだったのかもしれない。

あの声はきっと、ずっと胸の奥で響き続けるのだろう。
記憶は消えても蝋燭の炎のその奥で、想いは残り続けるのだ。
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公開:25/07/27 18:10
更新:25/07/27 19:07
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