10
7
家から駅までは、いくつもの道筋があった。この街に住んで十年、僕はずっと同じ道を歩いてきた。
ある日、見知らぬ紳士が僕を呼び止めた。
「毎日同じ道を通ってますね。勿体ない」
「なぜですか?」
「世界は広い」
僕は「はあ」と気のない返事をした。
「でも、この道がいちばん慣れているので」
紳士は笑った。
「慣れですか。それは時に、新たな発見を妨げるものです。試しに明日から別の道を通ってみては? きっと新しいものが見つかりますよ」
僕は黙ってその場を離れた。でも、僕の心には小さな揺らぎが生まれていた。
翌朝、僕は初めていつもと違う路地に足を踏み入れた。見知らぬ風景の中に、焼きたてのパンの香りが漂う。
「へえ、こんな所にパン屋が……」
僕の知らない世界が、そこには広がっていた。
パン屋から店主が出てきて僕に声をかけた。
「焼きたてのパンはいかが」
顔を見るとあの紳士だった。
ある日、見知らぬ紳士が僕を呼び止めた。
「毎日同じ道を通ってますね。勿体ない」
「なぜですか?」
「世界は広い」
僕は「はあ」と気のない返事をした。
「でも、この道がいちばん慣れているので」
紳士は笑った。
「慣れですか。それは時に、新たな発見を妨げるものです。試しに明日から別の道を通ってみては? きっと新しいものが見つかりますよ」
僕は黙ってその場を離れた。でも、僕の心には小さな揺らぎが生まれていた。
翌朝、僕は初めていつもと違う路地に足を踏み入れた。見知らぬ風景の中に、焼きたてのパンの香りが漂う。
「へえ、こんな所にパン屋が……」
僕の知らない世界が、そこには広がっていた。
パン屋から店主が出てきて僕に声をかけた。
「焼きたてのパンはいかが」
顔を見るとあの紳士だった。
ファンタジー
公開:25/07/20 20:14
老後の楽しみに、短いものを時々書いています。
ログインするとコメントを投稿できます