小さな旅

0
2

「あづい!!」

 そう叫んで一足先に自転車で走り出したキミ。でもこないだ「暑いって言うな!暑くなるでしょ!」と怒ってたよね。
 夏の太陽の下で帽子も被らず立っていたせいか、こめかみから滲む汗は少し頭を振れば垂れてきてしまうだろう。
 軽く額を拭ってヘルメットを被ると、頭を焼く日差しから逃れられた。

「風が!気持ちいい!」

 長い髪がたなびく後ろ姿は楽しそうで、きっと大きく口を開けて笑っているだろう。
 ペダルを踏む度に浮かぶ汗を風が撫ぜる。それが擽ったくて私も笑った。
 坂道だって、砂利道だって。キミと進む道のりは楽しい。

「海だ!」
 目的地が見えた。ポツリと溜息をついたのはキミだったのかな。

「ねえ、このまま海沿いを走ろうよ」
 ハンドルをぎゅっと握って、キミを追い越し走り出した。
「良いじゃん!」

 風が止まないように、この時間が終わらないように、強くペダルを踏み込んだ。
青春
公開:25/07/16 17:00

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容