つぼみとシルエット

私の祖母は傘を愛する人だった。雨の日は雨傘を。晴れた日は日傘をさして外を歩いていた。
そんな祖母に連れられ一度、傘農家を訪れたことがある。
今ではもう殆ど見なくなったが、昔は傘を育てている農家さんが少なからずいた。祖母はそこで自分専用の傘を育てていた。
私も傘を育ててみたい！そう思うも、私に応えてくれる傘はいなかった。
農園の傘は自らが持ち主を選ぶ。私を前に、どの傘もつぼみのように固く己を閉じ、開いてくれる様子がない。
がっかりする私に祖母が「あなたにはもう、自分の傘がいるでしょ？」と優しく微笑む。
すると「お～い！」と私を呼ぶ聞きなれた声。空を見上げると私の傘が地面に影を落とし、ゆっくりと降りてくる。
「今日は昼から雨が降るって言っただろ。俺を置いていくなよ」
私の手に収まる愛用の唐傘。傘を忘れがちな私の後をいつもついてくるかわいい奴。
陰りそうだった私を、今日も唐傘は笑顔にしてくれた。