悲しみの塊

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ふっと風にのって
林檎の香りが流れてきた
近くに林檎の木なんてないのだけれど
季節はまだ林檎のそれではないのだけれど

きっとわたしの奥底のなにかが
わたしの知らないうちに
林檎を求めているのだろうなあ

歯をたてると
しゃぐっとおいしい音をかもすあの瑞々しい物体を
わたしは求めているのだなあ

はたしてそこまで
わたしは林檎を好きだったのかと
正直なところあまりよくわからない

あれば食べるなあ
食べる
食べる
あれば食べる

しかしあの
茶色くなってしまうのは
悲しくって
悲しくって

茶色くなってしまった林檎は
悲しみの塊だ

あの茶色をすこしもみたくないから
はやく消してしまおうと
それそれそれとばかり
無理して茶色い林檎を口へと放り込んだことは
これまで何度もあったなあ










.
その他
公開:25/07/11 15:15

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