天使と悪魔

天使とはなんとも損な役回りか…
さっきも百円を拾った人間に「交番に届けましょう」と囁くも、人間は「百円くらいいいじゃねぇか。もらっちまいな」と囁く悪魔の声に耳を貸し、百円をポケットに入れてしまった。
そんなやるせなさからため息をついていると、悪魔がペットボトルの水を差しだしてきた。
「飲めよ。熱中症になるぞ」
それを受け取る。冷えていてとても美味しかった。
私は悪魔を憎めない。だってこいつ、いい奴なんだ。
悪魔も仕事だから人間に悪を囁く。悪いのは悪魔ではなく、それに耳を貸す人間だ。
「そんなことはない。悪いのは俺だ。俺が囁かなきゃ、あの人間は百円を交番に届けていただろう」
損な役回りだよ…と、呟く悪魔。
「だから、俺が人間にとんでもない悪事を囁こうものなら、その時は天使。お前が俺を、殺してでも止めてくれ」
こんないい奴を殺さなきゃいけない日が来るかもしれない。
やっぱり天使は損な役回りだ。