つぼみとシルエット

娘が生まれた日に、僕は劇場型貯金箱を購入した。
さっそく１万円を入れる。劇場のスクリーンにおくるみに包まれた娘のシルエットが浮かぶ。まるで蕾だ。
その蕾を、花嫁にするのが僕の目標だ。

…とはいえ、貯金なんて順調にいくものではない。
予期せぬ急な出費に何度も貯金箱からお金を引き出す。戻す事はあまりない。
そのたびにスクリーンには結婚式を挙げられずにシクシクと涙する娘のシルエットが浮かび上がる。
その罪悪感に貯金箱からお金を取り出すのは止めようと決めた。そこから取っていいが当たり前になってはいけない。
シルエットに踊らされている気が少々するも再び貯金を始める。

そうして迎えた娘の結婚式。劇場型貯金箱のおかげもあって立派な門出となった。
空っぽになった劇場型貯金箱。おいおい。休んでいる暇なんてないぞ。
今度は、孫のために貯金を始めるんだからな。
貯金箱のスクリーンに蕾のシルエットが浮かんだ。