つぼみとシルエット

俺の弟子に絵は上手いが如何せん自分に自信がなく、酒を飲んでは愚痴ばかり吐く、吾平って男がいた。
吾平は座敷に行くも女に嫌われ、いつも一人で酒を飲んでいた。
だがある日、そんな吾平の話を聞く女が現れた。女はいつも障子越しに吾平の話を聞くんだとよ。一言も発せず、頷き、時には首を横に振る。吾平はその女をいたく気に入った。
ある時、吾平はどうしても女の姿を見たくなり、障子を開けたそうだ。
だがそこに女はおらず、遠くに一輪の花が蕾で佇んでいたらしい。幽霊の正体見たり枯れ尾花とはよく言ったものさ。
つまり女の正体はその蕾だった。
この日を境に吾平の絵は変わった。今まで美人画ばかり描いていたのが、一輪の花の蕾ばかり描くようになった。
つまらない絵に大衆が吾平を見限る中、俺だけはやっぱり吾平の才能は本物だったと確信した。
吾平の絵に月の光を当てて見な。
月の光で透かされた花の蕾の影が女の姿に見えるんだ。