叔母が来るので

0
2

「叔母が来るので、お先に失礼します」
 男はそう言うなり、急いで帰宅した。

「あれほど急ぐとは。よっぽど、叔母がいい人なんだろうな」 
「会ってみたいもんですね」
 職場はしばらく、その話題が持ち切りだった。

 男は信号待ちや、電車を待つ間も、その心情を表すようにその場で駆け足をしていた。

『早く帰らないと、叔母が来てしまう』

 叔母はマルチ商法によくひっかかり、妻はいつまで経っても、その手の勧誘に免疫が出来なかった。

 契約が成立する前に、なんとか帰宅するのが、彼の最重要ミッションだった。
公開:25/06/30 19:51

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容