クロヒカゲ

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「あなたは誰ですか?」

 ゆかりは冷たい視線を僕に向けた。
 水を飲み終えた証だ。あの水は、彼女にとって障害になる存在だけを忘却する。
 つまり僕は、彼女にとって依存先だった。

「えっと……病室を間違えました」
 僕は椅子から立ち上がり、そっと部屋を出る。
 ぽろぽろと涙が落ちた。
――これでいいんだ。――

 僕がそばにいると、彼女はダメになる。いや、ダメになっていたのは僕のほうだ。
 今回の事故も、全部僕のせいなんだから。

「ま、待って……行かないで!」

 息を切らしながら追いかけてきたゆかりの姿に、僕は息を呑んだ。

「あなたがいなくなるのを見てたら、悲しくて……」

 僕はそっと微笑んで、言った。

「……ごめんね。さようなら」
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公開:25/06/29 23:29

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