貯金箱

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 女には子どもがいなかった。「赤ちゃんが欲しい」と女は思っていた。女はある日、雑貨屋で、赤ん坊の形をした貯金箱を見つけた。女はそれをかわいいと思い、買った。そして、その日から、その貯金箱に、金を貯め始めた。重くなればなるほど、赤ん坊が成長したようで、女は嬉しかった。そんなある日女は、デパートのベビー用品売り場で、一台のベビーカーを見つけた。女はそれをかわいいと思い、買おうとした。しかし、女の手持ちの金、銀行預金を合わせても、買えそうになかった。女は家に帰り、赤ん坊の形の貯金箱を、床に叩き付けて、割った。女は、床に散らばった小銭を数えた。しかし、それでもあのベビーカーは買えそうになかった。女は「ごめんなさい、ごめんなさい」とつぶやきながら、貯金箱の破片を集めた。そして、小銭で、ボンドを買った。女はボンドで修復した後の貯金箱を、死ぬまで深く愛し続けた。
その他
公開:25/06/27 17:32

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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