名画でショート065『アーティチョークのある静物』(フアン・サンチェス・コターン)

主役を脇役が食ってしまうことがある。
この静物の主役は、あくまでアーティチョークだ。壁に立てかけられ、まるで薄いピンク色のドレスを身にまとった貴婦人のように、「私を見て！」といわんばかりにたたずんでいる。
添えられているニンジンは脇役だ。
だが、このニンジンの個性的な姿はどうであろうか。しなびて黒ずんでいる小さなニンジン。やや乾燥しているが、赤色が残っているニンジン。上半分が黒ずみつつあるニンジン。そして、ひとめを避けるように、一番下でひっそりと身を隠しているニンジン。
まるで、わがままな女王に恐れる女官たちのようだ。
主人公は、主役として、ある程度の型に嵌められてしまう。それに比べて、脇役の自由度といったら、どれほどだろうか。
この静物は、ふっと、そのようなことを暗喩しているのかもしれない。