落しましたよ

私が幼い頃、近所に魔法使いのお姉さんが住んでいた。
箒で空を飛ぶお姉さん。指をパチンと鳴らせば枯れ木にだって花が咲く。
その姿に憧れ、私も大きくなったら魔法使いになろうと思った。
私が少女になった頃、お姉さんは旅に出た。
お姉さんが箒を地面に落とす。
落としましたよ。と、私が声をかけるもお姉さんは「私にはもう必要のないものだから」と寂しそうに笑った。
大人になった私は、魔法使い検定に合格し、晴れて魔法使いになった。
そして、あの時お姉さんが寂しそうに笑った理由を知った。
お姉さんは魔法使いではなく、魔女になっていた。
魔女になると、その体は魔法の一部になるらしい。数年後には人ではなく魔法になってしまうらしい。
ああ…だからあの時、お姉さんは箒もなしに空を飛べたんだ…
私はお姉さんの箒で空を飛ぶ。枯れ木に向けて、パチンと指を慣らす。
枯れ木に花を咲かせた魔法は唱える度にお姉さんの香りがした。