凪
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手術台の上に、一人の男が横たわっている。男からは甘い匂いがする。男の周りには、執刀医や看護師がいる。執刀医が合図をし、看護師がメスを手渡し、手術が始まる。男に繋がれた心電図の音が静かに響いている。執刀医は男の胸を開く。胸骨を割ると、赤い物がある。本来なら心臓があるべき場所に納まっているそれは、一個の赤い林檎である。甘い匂いが強くなる。看護師がマスクを外し、林檎にかぶりつく。果汁が跳ぶ。看護師は林檎を噛み砕き飲み込み、「美味しいです」とつぶやく。「やっぱりいい人だね」と執刀医が答える。やがて心電図の波形が凪になる。
ホラー
公開:25/06/26 17:44
短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/
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