欠損

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「神様はいない。僕はそう信じてるんだ」
 黒髪の少年は、赤髪の少女の頬をそっと撫でた。
「分からない。あなたが何を言っているのか、私には分からないよ」
 少女は首を横に振り、懸命に意思を示す。
 それでも少年は、静かに口づけをした。
 少女は反射的に、少年の頬をひっぱたいた。
 少年は、半泣きになった少女の顔を見つめて、ぽつりと笑う。
「ほらね。信じていた通りだ」
 その瞬間、彼らを取り囲む大人たちが声を上げて笑い出した。
 滑稽だと、指をさして、心なく笑った。

 少女の目に闇が宿る。唇が震える。
 そして彼女は、少年の首筋に噛みついた。
 皮膚が裂け、血が弾けた。

 大人たちは魔女だと叫び、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
 少年は、首から溢れ出る赤を押さえながら、うつむいた。

 もう、何も取り戻せないのだと。
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公開:25/06/29 22:01

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