およそ1mmの無限

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 私は急いでいた。物をすり抜けられる装置を発明した、という博士の連絡を受けたからだ。
 研究室に着くと、ニマニマと笑っている博士がいた。その頭上には、天井から吊り下げられている一枚の長方形の薄い鉄板。大きさは2m×1m、厚さは約1mmといったところ。そして博士の手には、ブレスレット型の複雑な機械。
 助手として、何をするべきか即座に悟った私は、博士に言われるがまま左手首にその機械を装着し起動させ、鉄板の下に移動すると、高飛び込みの要領で、鉄板に向かって上へダイブした――
 
 ――私は確かに鉄板に突っ込んだ。それこそプールに飛び込むように。
 手首の装置に組み込まれている時計を見やる。
 十秒経った。
 一分経った。
 十分経った。
 一時間経った。
 私は叫んだ。
 二十四時間経った。
 一週間経った。
 私は狂った。
 一か月経った。
 二か月、三か月、半年、一年…………
SF
公開:25/06/29 18:08

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