初恋図書館

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『初恋図書館』
そう書かれた古い洋館が、町外れに佇んでいた。
そこは、誰も管理者を見たことがなく、来訪者の初恋の記憶を本にして貸し出すという噂だ。
Tは半信半疑で扉を叩いた。
Tの初恋の相手は幼馴染のA。
想いを伝えられず、疎遠になったAの記憶を整理したくて来たのだ。

中に入ると、そこには、埃っぽい空気と無数の本棚が広がっていた。
カウンターには誰もおらず、戸惑うTの前に、棚から本が落ちた。
表紙には、「Tの初恋」と書かれていた。
本を開くと、そこにはTとAの思い出が鮮やかに綴られていた。
だが、最後のページにはTの知らない場面があった。
AがTの卒業写真を見て、泣いていた。
Aの初恋もTだった。
Tは本を閉じ、衝動に駆られ図書館を飛び出した。
そこには、Aが待っていた。
「Tの初恋」には続きが書き加えられた。

『初恋図書館』
当館は初恋の記憶と、時折、想いを結ぶ一冊をお貸し致します。
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公開:25/06/23 02:04
更新:25/06/25 00:36

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