落としましたよ

仕事から帰宅する。今日もへとへとだ。
このままソファーなり布団なり倒れ込みたい気分ではあるが、今日も律義に帰ってすぐにメイクを落とす。
お風呂場でしっかり身を清めてから、我が家のアイドル、愛猫にお伺いを立てる。
「今日も私、仕事を頑張ってまいりました。メイクもしっかり落としました。なのでどうか、猫吸いする事をお許しください！」
胡乱な目を向ける愛猫。私の顔を見つめ、近寄ってきてはまるでキスするかのように顔のニオイを嗅ぐ。
もしここでメイク落としが不完全であれば猫パンチを食らう事になる。
ドキドキしながら沙汰を待つ。
やれやれ…と言いたげに猫が私に背を向け、香箱を組む。私はその背中にそっと鼻を押し付ける。
ああ…このニオイがたまらない…１日の疲れが吹き飛んで行く…
猫吸いを終え、顔を上げる。
メイク落としだけでは落とせなかった仕事用に作った顔が、見事に剥がれ落ちた。