落としましたよ

猫は意中の人間の前にわざと自身のヒゲを落とす。
人間はそれを「ヒゲが落ちている」と思いがちだが、あれは猫がわざと落としている。なんなら、落としましたよ、なんてアピールまでしてくる。
何でそんな事をするのかというと、猫は人間に比べ短命である。
短命であるからこそ、次の猫生でもその人間の所に行きたいと願う。
そんな時、道標となるのが自身のヒゲである。これがある限り、猫は道に迷わない。
猫は意中の相手や、お気に入りの場所には必ず自身の右頬のヒゲを渡す。次の猫生でも必ずそこへ辿り着けるように。
また、左頬のヒゲは持ち主をとある場所に誘い込む効果がある。
その場所とは山猫軒。人間に恨みを持つ猫は、そういった意味での意中の相手に左頬のヒゲを渡す。
猫は山猫軒にも自身の左頬のヒゲを渡している。人間が恐怖に震える姿を肴に食事を楽しむ。
右か左か、その違いは人には分からない。だからこそ用心が必要なのだ。