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 澄んだ虫の悲鳴が、晩夏の夜風に溶けていきます。日々近づく秋の足音は、あなたの耳にも届いていますか。
 あたしにとって、夏は、生というより、むしろ死を連想させます。うだる昼下がりに、縁側の端に、ポトリと死んでいる一匹のセミ。彼が死ぬまでに、どれほどの愛を叫んだかと思うと、なんだか切なくなります。
 夏は死の季節。それは冷たくなる死ではなく、燃え尽きる死。青ざめた死ではなく、白い死です。床に伏すあたしは、どのような死を迎えるのでしょうか。
 セミのように叫んで死にたくはありません。あなたは大層あたしの歌を気に入ってくださっていましたからね。願わくば、秋の虫たちのような、絹の如き悲鳴で、あなたへの愛を叫んで死にたい。
 秋はもうすぐそこです。美しい悲鳴が、家の庭を満たしつつあります。あなたの遺影の笑みが、少しずつですが、近く感じる今日この頃です――。
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公開:25/06/26 15:45

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