良い子の仮面

私は幼い頃から「良い子だ」と周囲から評価されていた。良い子の仮面を被り、自分を偽っていた。
私は時々、良い子の仮面を外していた。すると不思議な事に、誰も私だと気付かない。まるで魔法少女だ。
誰かに本当の私を知ってもらおうと思ったこともある。でも皆が求めているのは良い子の私であって本当の私ではない。
それが嫌で、私は良い子の仮面と故郷を捨てた。

あれから１０年。私は久しぶりに故郷の土を踏む。
駅を出ると、車いすを押す幼馴染の徹を見かけた。
声をかけようとしたが、車いすのそれを見て動きを止める。
そこに座っていたのは私が捨てた良い子の仮面…それをつけた人形だった。
「妻に何か？」
徹が怪訝そうに私を見る。
私は人形から仮面を奪うとそれを被った。
「おいおい、急に立ち上がったら危ないだろ」
徹は車いすに座っていた人形を捨てると、そこに私を座らせた。
故郷を捨てた私の１０年はなかった事になった。