水晶開き

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お祭当日の朝。水着姿の村人たちは、村を見渡す山の展望台でそわそわと始まりを待っていました。

やがてラッシュガードを羽織った神主が現れて、祭具の水晶玉を掲げながら厳かに祝詞を口にします。すると、村中の水晶が一せいに溶け、たちまち冷たいきれいな水が村を覆ってしまいました。

水晶の海を見て歓声を上げる村人たち。浮き輪を手に次々と駈け下りていきました。村の風景は沈んでしまいましたが、これはお祭が終わって、水晶が元に戻る時に直していってくれます。

これがこの村で年に一度行われる“水晶開き"。海のない盆地に住む人にとっての夏の楽しみです。

しかし注意は必要です。お祭が終わる午後十時までに山に登らないと、水晶が元に戻る濁流に飲まれて、カチコチの水晶に閉じ込められてしまいます。次のお祭まで外に出られません。
丸一年、水晶の中にいた海パン一丁の村長は、恥かしそうに村人たちに再会の挨拶をしていました。
ファンタジー
公開:25/06/22 14:27

紅石紗良( 北陸 )

令和7年4月から参加の新参者です。
当初はとりあえずやってみようの精神で投稿していましたが、
最近はもっとSSを勉強したい、上手く書けるようになりたいと思うようになりました。
若輩ですがよろしくお願いします…!

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